やっとここまできました。
でも、まだ始まったばかりです。
この調子で夏、間に合うかな?
PCがぐずってばかりで進まない。
こうゆう時は、ワープロの方が良かったです。
ロイ・マスタングがそれを見たのは偶然だった。
そこは街角にあるオープンカフェテリア。
近いうちに司令部に寄ると、そのカフェテリアにいる彼からニ、三日前に電話でその報告を聞いてはいた。
しかし今までの経験上、彼、エドワード・エルリックが予定通りに自分の許に訪れた事は、殆どなかった。
三年前、弱冠12歳で国家資格を取った、『鋼』の銘を持つ天才錬金術師。
しかし彼の予定はすべて未定に等しい。
今回もそうだろうと思っていた。
それが今!
同じ街中に居たとは!
「―――!?」
だが、ロイが見たのはそれだけではなかった。
いつも彼の隣にいる鎧姿の弟が全く見えなかったのだ。
今はいないだけで、直ぐにどこからか聞きなれた鎧の軋む音を響かせて現れるだろうと、最初は思っていた。
何しろあの二人はいつも一緒に行動している。
そして、お互いに相手の姿が見えないと直ぐに騒ぎ出すのだから。
しかし、直ぐに現れるだろうと予想していた弟の姿はいつまで経っても現れない。
その弟の代わりとばかりに、先程から彼の隣に立っている人物が一人。
見た目は彼より年上で、自分より若い男。
まだ少年の面影を残した青年といった容姿。
自分と同じ漆黒の髪の色をしていた。
トラブルメーカーで有名な彼、エドワード・エルリックである。
相手の青年と何か問題でも起こしたのだろうかと、ロイは最初そう思っていた。
もしそうならば、自分が仲裁に入って、その場を治めようかと考え始めた。
しかしよく見ていると、二人の様子からはそんな険悪といったような雰囲気は全くない。
どちらかというと、知り合いのような感じさえしてくる。
軍属であるエドワードは、よく東方司令部があるこのイーストシティに良く訪れている。
そうなれば、この街に知り合いの一人や二人、いたとしてもおかしくはない。
しかし、エドワードからその様な知り合いの話など、彼が資格を得てからの三年間。
一度たりともロイは聞いた事がなかった。
大体、イーストシティを訪れても彼らが行く場所は、ほぼ決まっていた。
東方司令部。
図書館。
そしてホテル等の宿泊施設。
これはその時の状況によって、いつものホテルが取れないときは別のホテルになることもあるらしい。
それでも定宿はそれなりにあるらしいが、ホテルに関して聞いているのは食事の話ばかり。
うまいとか、まずいとか。
後は旅先の話程度である。
交友関係の話等をロイはエドワードから殆ど聞いたとこがなかったのだ。
もしかしたら、部下たちが聞いているかも知れないが、それならそれで自分にも何かしらの報告のようなものがあるだろう。
ロイはエドワードを国家錬金術師に推薦した上に、軍内外においても彼の後見人的立場でもあるのだ。
それなのに、そのような報告でさえない。
今の彼らの状況や立場から、あまり親しい人をつくらないでいるらしい。
その様な話を以前ロイは聞いた事はあった。
だが幾らその様な事を本人が云っていたとしても、とても小さな出会いでさえ大切にしているエドワードである。
絶対にいない、とは云い切れない。
それでも自分より親しい人間がいると云う事が何故かロイには気に入らず、エドワードに対して八つ当たりに近い感情が沸き起こっていた。
未だ目の前には、二人が楽しそうに話をしている姿がある。
「―――!?」
そして、その男に向かってエドワードは満面の笑みを送っていたのだ。
ロイの目に入って来たその笑みは、自分の知る限り見た事がない笑顔だった。
いや、一度だけ見た覚えがあった。
それは、弟と一緒にいたときの笑顔。
もちろんロイにも笑顔を向けるときはある。
しかしその笑顔とはあきらかに違う。
弟にだけ見せる特別な、笑顔。
その笑顔が、自分の見知らぬ人間に向けている。
「・・・何故?」
胸の奥が痛む。
と同時にロイ・マスタングの中に沸き起こった彼、エドワードに関する感情は、許せないというものだった。
エドワードの何に対して許せないのか?
何故? と問われると、返事が出来ない。
ただ目の前の出来事がすべての原因である事は、充分すぎるほど分かっていた。
今まであの子の側に誰が居ようと、何も感じなったし、思いもしなかった。
それはいつもあの子の、エドワードの側にいるのは自分が知っている人間ばかりしかいなったからかも知れない。
それが今、彼の側にいる人間が自分の知らない人間だったからと云う理由だけで、こんな理不尽な感情を持ってしまっているのか?
「…くっ」
ロイはそんな二人に背を向けた。
これ以上、その場面を見たくなった。
踵を返し、今来た道を引き返そうとする。
これ以上見ていたら、何かとんでもない事をしでかしそうに思えてきたから。
そして、早くここから立ち去ろうと足を一歩踏み出した時、ロイは思った。
どうして自分がこんな事をしなくてはならないのだろうか、と。
なぜ自分がこんな思いをしなくてはならないのか?
と・・・
ロイは一瞬その場で考え込んでしまっていた。
エドワードの姿は完全に見えてない。
しかし、振り返ればロイの数メートル先の目の前にいるのだ。
エドワードを見た時に沸き起こった感情は、消えるところかますます広がっていくばかり。
それも、ロイとしては嫌な方向へと。
黒い沁み。
いや焔がじわじわとロイの中を侵食していくようにも感じていく。
こんな分からない感情に振り回されない為にも早くここから離れるべきだと思うのだが、もう一方でもう一度エドワードの姿を見たいと思う。
それらが交互に起こってくる。
ふと、何気なくロイは振り返った。
「―――!」
一瞬だが、エドワードと話している青年と目が合ったような気がしたロイは、何故か直ぐ顔を反らしてしまった。
こんな行動をとってしまった以上、再び振り返る事なんて出来ない。
誰も咎める人がいないのに、ロイは何故かそう思い込んでしまっていた。
相手はロイを見ているに違いないと。
そしてエドワードが笑顔を送る相手。
ロイはその相手の顔を思い出そうとした。
「………?」
全く思い出せない。
あれほどハッキリと見のに。
目も合ったハズなの。
それなのにまったく思い出せないのだ。
「………」
ロイの中に別の意味での苛々募り始めてくる。
どんな時でも、どんな些細な事でもロイは記憶に留めてきた。
軍人としても、科学者としても重要な事である。
それなのに、たった数分前の見たたった一人の人間の顔が全く思い出せないのだ。
何故こんな事になってしまったのか。
「…どうしたんだ、私は…」
ロイは自分に対して心を落ち着けて考えるように、深呼吸をする。
そして、ロイはこうなってしまった原因を思い浮かべる。
原因は、エドワード。
それは変わらない。
エドワードがロイの見知らぬ人物と一緒にいる。
それに自分には向けられた事がない笑顔を、その相手に何の躊躇いもなく向けられている。
そして、やっとロイの中でひとつの結論に達しようかとした時だった。
「あれ? 大佐?」
「―――!?」
ロイの耳に、よく聞き覚えの声が聞こえてきた。
声がした方に振り返る。
そこにいたのは、ロイが本当に良く知っている姿があった。
「やっぱこっちが大佐でしたね!」
「?」
金髪で長身、そしてトレードマークの銜え煙草。
ジャン・ハボック少尉がちょっと不思議そうな表情で立っていた。
それは、ロイとその背後を交互に見ているような感じで。
「こんな所で何をしているんですか? またさぼりですか?」
明るい屈託のない表情と声。
「?」
しかし、そんな部下の態度とは裏腹にロイは顔を顰めた。
部下の言葉に腑に落ちない点があったのだ。
「どうゆう意味だ?」
少し怒気が含んだような低い声。
「どうって・・・」
ハボックはロイの雰囲気に一瞬戸惑う。
上官の機嫌を損ねるような事はまだ一言も云ってはいない、ハズ。
あるとしたらやはりと、ハボックはロイとその背後を見つめた。
「あっちに大将がいるのが見えて」
それはロイも見た。
「その隣に立っている人。最初は大佐だと思っていたっスよ。私服で」
服まで着替えてサボっていたのかと思いましたと、ハボックは云う。
「私が、私服で?」
ロイは見たくなくて背けた方に、ハボックの言葉を聞いて、仕方ないと云った感じで振り向いた。
エドワードは相変わらず相手と楽しそうに話をしている姿が目に入ってくる。
「そう思った時、少し離れた場所にいた軍服着ている大佐が目に入ったスよ」
ハボックはエドワード達を見ながらカジュアルに話した。
「こうして見ると、大将と今話している相手って、遠目からだと大佐に似ているッスよ」
ロイと同じ黒髪。
背格好も似たような感じ。
プライベートではよくカジュアルな服を好んでロイは着ている。
だがその割りには服のカラーがいつもダーク系を好むロイにしては、ライト系なのがハボックの気になった箇所だった。
そう云われてロイはエドワードの相手を見てみる。
先程まで全く思い出せなった相手の顔を、今度はしっかりと見てみる。
「・・・・・・・・・」
ハボックはロイに似ていると云う、エドワードの相手。
そうなんだろうかと、どこか納得できない自分がいた。
服の好みは付き合う相手に合わせていろいろとコーディネイトできるようにしていたはずだがと、どこか勘違い的な事柄が頭の中をよぎっていく。
だがエドワードの相手が自分と同じ髪と瞳の色をしているからと云って、ロイに似ているかと云われて似ているとは決して思えなかった。
「何か大将、楽しそっスね。一体何を話しているんでしょうね?」
上機嫌なハボックの声が、ますますロイを苛ただせる。
「かなりヒマそうだな?」
「えっ!? あの~??」
「戻ったら仕事だ」
「えっ? 一体…」
「鋼のと話している相手について調べろ」
「ええーッ!! そんな~大佐!!」
ハボックには一体何がロイの気に障ったのか全く分からなかった。
ただ、エドワードが自分たちのような軍人以外で楽しそうにしていると云ったぐらいである。
「鋼のは見た目は子供だが、れっきとした軍属だ!」
「まさか…あの大佐に似た相手が、大将の事を知って近づいたと…」
ロイの言葉にハボックは信じられないと云った表情をする。
「なくはないだろう?」
エドワードは年齢の割りには幼く見える。
しかし、れっきとした軍属である。
待遇も少佐相当の地位である。
軍の機密と云われるものに関しても、多少は関与したりする事が、ないとは云えない立場でもある。
「まあ…そうっスが…」
もっともらしい理由を挙げて、ロイはハボックに今、オープンカフェでエドワードと一緒にいる青年の調査を命じた。
薄い笑みを口元に湛えるロイに対して、ハボックは盛大な溜息を付いていた。
これでまた、暫くの間休日返上がほぼ決定したからだ。
ロイは先程まで見る事を避けていた場面に目を向けた。
「戻るぞ!」
「…イエッサー!」
二人を一瞥して踵を返す。
その後をハボックがガックリと肩を落とした姿勢で付いてく。
兎に角、明日。
ロイの中で形が見え始めた答えに対する対応。
そして、エドワードと一緒にいた人物。
ハボックの調書を待つまでもないかも知れない。
エドワードは司令部に、ロイの元に訪れるのだ
そこで、今日の出来事を尋ねれば良いだけ。
すべて明日。
直接エドワードに問い質せばいい。
ロイはそう決心したのだった。
続く
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