時間との戦いになってきました。
無事終るのかな?
まだこの当たりをウロウロしている…
Ewig3
ロイ・マスタングのその言葉を聞いた時、エドワード・エルリックの時間が、いや部屋全体の時間が一瞬、止まったような気がした。
だが、止まっただけではない。
物凄い冷気、いやブリザードも吹雪いたような気さえした。
部屋にいたのは自分たちばかりでない。
ロイの腹心の部下たち、全員もその場にいたのだ。
そして、やっと時間が動き始めた頃になって、今一度。
目の前の男が言い放った言葉をエドワードは思い返した。
それは。
『私と付き合ってみないか? 鋼の』
これは一体どうゆう意味なんだろう?
それより、自分はここに何をしにきたのだろう。
エドワードは時間にすればほんの一瞬の間に、ここに来た目的を改めて思い出していた。
確か、溜まりに溜まった報告書。
弟のアルフォンスにいい加減提出するように云われて、やっとここまで持ってきた。
そして、自分たちの捜し物、賢者の石に関する情報がないかを聞きに来た、ハズであった。
それがこの部屋に着いた途端、ロイに呼び寄せられて。
突然上司から意味不明な事を云われるのだろう。
そう、この部屋の扉を開けた時。
エドワードの目に飛び込んできたのは、一枚の絵のように優雅にデスクの向こうの側に座っている、ロイ・マスタング国軍大佐の姿。
「やあ、鋼の」
いつも以上に胡散臭い笑みを湛えて、エドワードを部屋に迎え入れられた。
その時、長年の習慣と経験で、これは何かよからぬ事があるという直感がエドワードの脳裏に閃いた。
途端に部屋に入る歩みが鈍くなる。
しかしエドワードの後ろには大きな鎧の姿をした弟が付いてきていた。
鈍る歩みの兄に対して、弟の歩みは久しぶりにみんなに会える喜びで足取りは軽い。
当然、兄と弟の差が生じてくる。
決して、二人の身長差からではない。
「どうしたのさ、兄さん?」
突然、目の前の障害物と化した兄に対して聞いてくる。
兄は胡散臭いロイの事を持ち出そうとしたが、これまた長年の経験と習慣で弟の一蹴されるのが、嫌と云うほど分かっていた。
絶対、兄さんの気のせいだよと云われるに決まっている。
どんなに兄が正しくとも、今の自分たちが自由に旅が出来るのは大佐のおかげなんだからと。
一種の説教に近い事を、下手をすれば延々と云われ続けるのだ。
この時のエドワードとしては珍しく何事もなく、それでも歩みは鈍く、部屋の中へ入っていったのだった。
そして、いつものように挨拶を交わした途端、ロイからの第一声が、
『私と付き合ってみないか? 鋼の』
だったのだ。
エドワードは今一度、この状況を考える。
どう考えてもロイのセリフは嫌がらせとしか思えない。
ロイも日時や場所を問わず、お年を召した方々からありがたくもない好意を押し付けられいると云う。
そんなありがたくもない好意のお裾分けだろうか。
「………」
エドワードは大きく深呼吸をした。
そして。
「リセットだ」
そう小さく呟き、クルリとロイに背を向け、ホークアイたちの方に向き直った。
「中尉、元気だった?」
東方司令部の影の実力者と云う異名をもつリザ・ホークアイ中尉に笑顔で声を掛けた。
「…ええ、元気よ。エドワード君たちも元気そうね」
上司の言動の後遺症で少し言葉に詰まりながらも、普段は見れない笑顔で応えてくる。
「最近では、テロ騒ぎもないようですよね」
アルフォンスもロイの存在を亡き者として会話に加わってくる。
「まったく、平和だよ!」
「そうだな」
「・・・」
ハボックたちも同調し始め、完全にロイの存在を無視して話が進みだしていた。
そうなるとおもしろくないロイ。
昨日から考えに考えてエドワードに送った言葉を綺麗に無視。
それどころか、ロイ自身さえいないものと云った感じの会話が目の前で延々にされているのだ。
ロイは兎に角冷静さを心がける。
「鋼の」
「それでね!」
「鋼の」
「すごいや!」
「鋼の!!」
「―――!!」
一際大きなロイの声が部屋中に響き渡る。
次の瞬間、部屋に一瞬だが火花が散ったような気さえする。
「・・・」
「あれ? 大佐居たんだ!」
サボって脱走したと思っていたよと、エドワードは少し苛ただしさを含んだ表情でロイの方へ振り向いた。
「ずっといたのだがね?」
対するロイも不満そうな表情を浮かべている。
「ふ~ん、そうなの? 分からなかったよ」
二人の会話の空々しさに、部屋の温度が急激に低下していく。
ホークアイがロイに取り成そうとするが、視線で制されうまく話し出せない。
まさか少しロイを無視したぐらいでこんなに怒るとは、流石のホークアイでも想定外のことだった。
「・・・まあいい。鋼の」
「何だよ!」
腕組してロイを睨みつける。
だが、決してロイがいるデスクに近づこうとはしない。
ロイは小さく息を吐くと、ゆっくりを席を立つ。
「鋼の、此方で報告を聞こう」
そう云うと、ロイは隣の実務室に向かって歩き始めた。
「えーっ!! 隣ぃ? ここでもいいだろう!」
エドワードは抗議の声をあげる。
だがロイには聞こえないらしく静に一言だけ。
「鋼の」
「・・・ッ」
その声にエドワードは声を詰まらせ、仕方なく大きく息を吐くしかなかった。
「分かったよ」
行けばいいんだろう行けばとブツブツ云いながらロイの後について歩き始める。
「それじゃ、僕はみんなと待っているから」
「ああ…」
何故か明るい感じの声に聞こえるアルフォンス。
自分には被害がないと分かって嬉しいのだろう。
反対に確実に被害が及び事が決定したエドワードはガックリと肩を落として力ない返事をするしかなった。
「みんなに迷惑掛けるなよ」
兄らしい事を一言云っては見るが、
「兄さんじゃないんだから、大丈夫だよ」
「どうゆう意味だ!」
「確かに。アルフォンスなら何の心配もいらないな」
みんなアルフォンスの言葉を支持。
エドワードは見事に、墓穴を掘ったようなものだった。
続く
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